★宿泊者名簿での性別記載の強要が廃止されました。
「性別」を宿泊者名簿の必須記載事項としない自治体も多いのに、区では旅館業法上の必須記載事項でした。
このため性別変更していないトランスジェンダーが自認の「性別」を書けば刑法犯となる可能性。
区の規定の非人道性を上川が説き、性別記載の強要は廃止されました。
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◆上川あや
おととしの四定で取り上げた区の旅館業法施行細則が、その宿泊者名簿で性別記載の回答を強要している事実について取り上げます。
区の旅館業法施行細則は、性別を宿泊者名簿の必須記載事項としています。このため、区内のホテルや旅館では、必ず性別記載が求められる状況となっています。この記載事項を告げない者、つまり、当区で言えば性別欄を回答しない行為は法律違反となり、平成十七年の厚労省通知により宿泊拒否できることになっている。なおかつ、平成二十六年の厚労省通知によって、再度記載の徹底が念押しをされている。
この認識に誤りはないでしょうか。
◎加藤 生活保健課長
国の旅館業法では、宿泊者名簿に記載すべき事項を宿泊者の氏名、住所、職業等と規定しておりまして、その法を受けた細則として世田谷区旅館業法施行細則で、さらに性別、年齢、前泊地等を記載することとしております。
御指摘のとおり、平成十七年二月の厚生労働省通知は、宿泊しようとする者が宿泊者名簿に記載すべき事項を告げない場合、旅館業の営業者が宿泊を拒否できることを保健所を通して旅館業者等に周知するものでございます。また、平成二十六年十二月の通知では、テロ等の不法行為を未然に防止するためにも、宿泊者に宿泊者名簿への正確な記載を働きかけること等を改めて業者へ通知するもので、委員のおっしゃるとおりでございます。
◆上川あや
前回の質問で、区が記載を求める性別は、性自認であるのか、身体的性別であるのか、戸籍の性別であるのかを問うたところ、戸籍の性別であるというのが答弁でした。ところが、前回の質問で指摘したとおり、法律上性同一性障害の戸籍の性別変更には高いハードルがあり、性別変更を済ませた当事者は学会の調べでも約二割にとどまります。つまり、戸籍の性別と日常生活が性別の上で一致せず、その身分証明すら難しく、トラブルの要因を抱えながら暮らすトランスジェンダーのほうが多い実情があります。
ところが、区は前回の質問から今に至るまで、性別記載の強要をやめることはありません。そのため、例えば日常生活一切を女性として暮らしながらも、戸籍が男性なまま変えられずにいる当事者が宿泊者名簿で女と書くとどういうことが起こるのか。旅館業法十二条では、宿泊者名簿に対し偽って告げた者は拘留または科料となっています。何日間拘留されるのですか。また、この科料は行政罰ではなく刑罰ですから、一生消えない前科もつくのではないでしょうか。
◎加藤 生活保健課長
旅館業法の第十二条では、宿泊しようとする者が宿泊者名簿に記載すべき事項について偽って告げた者に対し、拘留または科料に処すると定めております。拘留は一日以上三十日未満、科料は千円以上一万円未満と刑法で定められております。前科につきましては法律上の規定はございませんけれども、仮に確定判決で刑の言渡しを受けたことを前科とするならば、科料も刑に含まれることから前科と考えられます。
◆上川あや
本年六月に施行されたパワハラ防止法の指針では、個人の性的指向や性自認は、病歴や不妊治療と同じ機微な個人情報であるとされ、それを告白させる行為、アウティングはパワハラとされております。
つまり、戸籍の性別変更をしていないトランスジェンダーに戸籍の性別記載を迫る行為も機微な個人情報の暴露であって、ハラスメントにならないでしょうか。
◎加藤 生活保健課長
区は、昭和五十五年に東京都の旅館業法施行細則に倣いまして、宿泊者名簿に性別等を記載することを定めました世田谷区旅館業法施行細則を制定いたしました。当時は、旅館等の宿泊施設が火災に見舞われ焼死者が出た場合など、性別が判断できないときに身元確認をする上で記載が必要であるとの意見が多数を占めていたものと認識してございます。一方で、宿泊者名簿に性別を記載いただくことは、戸籍上の性と日常生活の性が異なるトランスジェンダーの方にとっては機微な個人情報を求められることであり、ハラスメントにも似た苦痛を感じるおそれがあることも認識してございます。
◆上川あや
都内では、前回質問した時点で当区だけではなく、都内全域で性別が記載事項とされておりました。
ところが、前回の質問から二年弱、当区が何ら改善策を講じない間に、杉並区と北区ではみずから性別記載の強要をやめたと承知をしております。また、今回四十七都道府県と全ての政令指定都市について調べた結果でも、都道府県で性別記載を強要していたのは四十七都道府県中十七県だけ。二十ある政令指定都市でも六市だけでした。つまり、大半の自治体ではそもそも必要とされていないセンシティブ情報の記載を区は迫り続けてきたことを意味します。
このような自治体間の対応の差は、つまり人権意識の差ではないのですか。そもそもトランスジェンダーにまで戸籍の性別記載の強要をすること自体、区条例が求める性自認の尊重の理念に反します。改めるべきではないでしょうか。保健所長の見解を問います。
◎辻 世田谷保健所長
保健所では、宿泊者名簿への性別の記載につきましては、以前は戸籍の性別と考えておりました。しかし、性的マイノリティーへの社会的理解が進む中、また、トランスジェンダーの方の苦痛を少しでも軽減できるよう、性別の捉え方を見直すべきと考え、現在は宿泊者名簿に記載する性別は戸籍上の姓に限定しておらず、御自身が認める性であっても問題はないものとしております。
◆上川あや
当区は性自認、性的指向での差別を認めない男女共同参画の条例の中で、性の多様性に起因する日常生活の支障を取り除くための支援を基本的施策の一つとしております。ところが、保健所の施行細則の持つ効果はその逆で、人の嫌がることを強要し、その人を犯罪者におとしめるリスクすら持つ日常生活の支障そのものとなったままです。
以上申し上げてきたように、非人道的な要素があまりにも多い同規定の継続は誤りと考えます。速やかな削除を改めて求めます。保健所長の決断を問います。
◎辻 世田谷保健所長
区が施行した世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例では、全ての人が多様性を認め合い、人権が尊重され、尊厳を持って生きることができる社会の実現を目指しております。そのため、全ての宿泊者がストレスや不安を感じることがないよう、宿泊者名簿に記載すべき事項から性別の項目を本年度中に削除する方向で調整してまいります。
◆上川あや
遅きに失した感はありますけれども、削除そのものはよいことです。これからも性の多様性に配慮ある保健行政の展開を期待しまして、私の質疑を終わります。