◆上川あや

平成27年度、各会計予算6件に賛成の立場から、意見と要望を申し上げます。

第一に申し上げるのは、区の語る言葉の空虚さについてです。
今月3日、区は「子ども・子育て応援都市」を宣言いたしましたが、実態を伴わぬ言葉が空疎に響きます。
誰もが知る通り、ここ数年の世田谷区の保育待機児数は、全国でもワーストワンを争うレベルです。保育定員の大幅拡充策も毎年、計画倒れに終わり、その都度厳しい批判を受けています。加えて、私から繰り返し改善を求めてきた、子どもに借金を背負わせる奨学金制度も、何一つ改善がないまま、当初の「検討する」の答弁から2年半が経過しています。
さらに、区と区教委が立ち上げた子どもの人権擁護機関「せたホッと」の相談・支援業務も、その初年度からボロを露呈しました。
私が昨年の議会で明らかにした通り、区は小学生と高校生の子育てをしている全盲のお父さんに対し「育児の定義は乳幼児まで」との持論から育児支援を切り捨てようとしてきました。児童福祉法は18歳未満を児童と定義しています。また私の調査では都内4区3市が明らかに高校生まで育児支援を提供しています。しかし「せたホッと」は、このお父さんの相談に何ら有効な手を打たず、それどころが区のやり方に苦言を呈するお父さんの相談を「申し立て」として受理せず受け流し、区のサービスである代読代筆サービスの辞退さえも迫りました。これで区から独立した人権擁護機関だというのですから、呆れます。
これらのどこが「子ども・子育て応援都市」なのでしょうか。

今回の予算議会でも、「保育待機児担当参事」なる新ポストの創設が突然伝えられ、「保育待機児対策本部」なる新組織の創設が、何ら予告なく打ち出されましたが、他会派の議員が、この本部の新設はいつ決まったのか?どういう組織なのかと担当課長に問うと「私たち、下々の者には分りません」と、課長自身、戸惑う声が返されたといいます。
散々な状態を覆い隠す、言葉だけのキャンペーンには賛同できません。実務の充実にこそしっかりと取り組んでいただかなければなりません。

本定例会の一般質問、さらに今週初めの質疑では、区の子ども自身に借金を背負わせる全貸付型奨学金を、返済不要の給付型に切り替えるよう改めて求めました。
すでに3回目、4回目となる是正要望です。2012年9月の定例会で初めてこの問題を取り上げ、他自治体で成功例のある寄付を原資とした返済不要の奨学金制度の創設を求めました。区長も「ぜひ意欲的に考えたい」「実現したいテーマの一つと考えている」と前向きに応じ、当時の子ども部長も「区内の篤志家や団体から御協力いただける仕組みのあり方を、次期子ども計画における検討テーマに結びつけたい」と答えました。
ところがこの春策定の、子ども計画には奨学金のシの字もなく、あの答弁はいったい何だったのか、この2年半を無為に過ごしてきたのではないかと空しさが残ります。
所管部は、私の度重なる追及に、最も困難な若者から支援をしていくよう区長から指示を受けている。給付型奨学金も含めどのような支援が可能か27年中に検討したいと答弁しましたが、来年度の1年間で検討しようという課題を、なぜこれまで2年半も放置してきたのか、全く辻褄合があいません。担当部の怠慢は明らかで、誠に罪深いと言わなければなりません。改めてしっかりとした反省と速やかな改善を求めます。

区が無為に過ごしてきた問題はこれだけではありません。
文教領域の質疑では、区教委が36年間、放置しつづけてきた課題、文化財保護奨励金の課題を取り上げました。
文化財保護奨励金は、都から移管され、要綱が定められた昭和54年以降、区では大きな改正もなく36年間が過ぎてきました。しかしこの間、同種の制度をもつ15区中、13区はこれを条例に定めのある、補助金、助成金制度へと切り替え、費用対効果をしっかりチェックしています。
世田谷区の、文化財の所有者であるというだけで、何ら努力を求めず、他区の倍近いお金を毎年、たれ流す制度は改めるべきでしょう。このような制度を温存させてきた区のチェック体制そのものに疑問を覚えます。区はこの間、補助金等の見直しを進めてきましたが、費目が補助金でないために見過ごされてきた事務がこの他にもないのか。改めてのチェックを求めます。

また、33年間、実態調査も行わず、なかばそのリスクが忘れられてきた区立大蔵運動公園地下の長大な防空壕の問題も重要です。
都市整備領域の質疑では、全長600メートルとされた巨大な防空壕が、今なお、同公園の地下にあることを問い、陥没事故等の未然防止と戦争遺跡の保存に向けた調査を求めましたが、今回、区内の防空壕を調べ、問題が大きいと感じたのは、防空壕の所在を確認しながらも、その後、埋戻しの起案もなく現状が不明の防空壕が少なくないという事実でした。
成城の不動坂の防空壕も、同じく病院坂の防空壕も、岡本の旧鮎川邸付近の防空壕も、その所在が一旦は確認されながらも、その後の状態は不明となっています。そこに陥没事故のリスクはないのか、戦争遺跡として保存・活用するべきものはないのか、あらためての調査を求めます。

次に、同じ失敗を繰り返さない予算措置についてです。
区民生活領域の質疑では、今年度初めて行われた1日だけの、しかも受付時間3時間半だけの男性相談が全くの相談数ゼロに終わった事実を取り上げましたが、区の男女共同参画プラン調整計画に「男性相談」の実施を謳いながら、来年度も同じ1日だけの男性相談を予算計上している意図が理解できません。公金を使う以上、1日だけの予算額とはいえ、同じ轍(てつ)を踏まない事務改善が必要であるはずで、どうせ1日だけの事業、予算額もたかが知れていると、安易に予算計上を許す姿勢が垣間見え、非常に残念です。
来年度どのように実施なさるのか、その結果もしっかりとみて参りますが、本来、区が実施するべき男性相談は1日相談ではないはずです。他の自治体同様、定期開催となるよう、しっかり取り組んでいくことを改めて求めます。

最後に性的マイノリティの尊厳と権利の回復についてです。
今月5日、区長と担当部長のもとに、世田谷区内に同性同士、家族として暮らす方々ら16名をお連れしました。本当に困っている区民がいることを知ってもらうため、皆さん勇気を出して、住民票と納税証明書を持参のうえ、実名、実住所の書かれた要望書を持っていらっしゃいました。各人がつづる経験や思いが、大変切実であったことも印象的でした。
この場をかりて、そのいくつかをご紹介したいと思います。

「アパートを借りようとした時、不動産屋に男同士には貸さないけど管理費を倍払えば大家にかけあってやると言われ、しかたなく6年間払い続けた。警察官に巡回連絡カードを出した時、宗教とかしてるの?としつこく聞かれた」
(北沢支所管内に23年間、同居する40代と50代の男性公務員同士のお二人です)

2014年にパリで同性婚をあげた。日本で効力がないことはわかっているが、少しでも二人の関係を証明するものが欲しかった。37年間交際してきた同性パートナーの友人が、以前病院で、面会拒絶を経験して、助言してくれた。
(北沢支所管内に21年間同居している日本人とフランス人男性、お二人の声です)

以前、交際していたパートナーが倒れて入院し、病室にすんなり入れずとても悲しい思いをしたことがありました。パートナーが意識不明の状態ですぐに手術が必要だったとしても、私は手術同意のサインをすることができず、肉親の方が来るまで待たねばならない。いざという時は家族として扱ってもらえないことが将来の一番の不安です
(玉川支所管内に住む、30代、女性の方からのお声です)

パートナーが同性であるために、守られない区民の権利や尊厳があります。
昨日午後、渋谷区議会の委員会では、同性パートナーに公的な「パートナーシップ証明書」を発行する条例案が、2対6の賛成多数で可決されました。31日の本会議でも3分の2の賛成多数をもって可決される見通しとなり、早ければ夏にも証明書が発行されると見られています。当区も「なるべく早く実現したい」と区長がその改善をメディア向けに表明し期待しておりますが、今度も空手形にならぬよう速やかな改善を求め、私の意見といたします。