◆上川あや
本日は、区民協働のまちづくりという観点から、寄附を通して区民の善意を区政に生かす仕組みづくりについて提案と質問をしてまいります。
提案の第一は、税の投入が不要な奨学金制度の拡充策です。
寄附を原資として返済不要の奨学金ファンドを区でつくりませんかと提案いたします。
長引く不況と貧富の差の拡大によって奨学金の利用希望者はふえる一方、その卒業後の返済はますます難しいものとなっています。昨年、文部科学省の交付金で都道府県が実施している高校奨学金事業でも、貸与した奨学金の回収率が想定を下回り、このままでは三十一年度までに七百九十億円もの資金不足に陥る見通しになったと報じられました。
こうした中、世田谷区の奨学金も税を原資とした貸し付け型のみが運用されています。募集人員も高校生六十人程度と少なく、卒業後十六年以内の全返済が基本です。率直に申し上げて、支援の範囲が狭く、また審査も厳しく、無利子とはいえ単なる貸付金事業であって、非常に貧しい支援内容だと感じます。加えて、その未返済額も膨らむ一方となっています。
他方、札幌市は昭和二十六年以降、市民や事業者から寄せられた寄附金で奨学金ファンドを造成し、その運用益で返済不要の給付型奨学金事業を実施しています。その支援対象も、高校、高専、短大、大学、専修学校生と幅広く、今年度も千二百七十五名もの奨学生をとっています。この札幌市のファンドには昨年度だけで九千九百万円を超える寄附が寄せられており、その残高も昨年度末時点で十六億七千万円を超えています。
区にも二億円を原資に寄附金を積み立てた子ども基金がありますが、条例上、その実施対象に奨学金は含まれておりません。世田谷区も、札幌市の事例を参考に、寄附金をもとにした返済不要の奨学金ファンドをつくることを提案いたしますが、いかがでしょうか。
また、全国の短大、大学への進学率が五九%を超え、進路の選択もまた多様化している現状を考えれば、区の奨学金による支援対象も、札幌市同様高校生以外に広げていくべきと考えますが、いかがでしょうか。それぞれ区の見解をお聞かせください。続いて、寄附を元手に奨学金ファンドをつくるに当たっては、寄附へのインセンティブを高める冠奨学金制度とすることを提案いたします。
貸し付けた奨学金が焦げつき、自治体が次々と貸し付け型の奨学金事業から撤退する中で、近年、各大学が力を入れているのが独自の奨学金制度の確立です。篤志家がみずから財団法人を設立する手間を肩がわりするように、大学で寄附金から基金をつくり、その運用益で給付型の奨学金制度を運営するもので、篤志家もみずからの名を冠した奨学金が簡単に得られるメリットがあります。例えば、早稲田大学には実に百を超える奨学金メニューが用意されており、そのすべてが返済不要の奨学金となっています。区でも、運営主体の安全性、安定性を切り札に、区民対象の冠奨学金制度をつくることを提案いたしますが、見解を伺います。
◎萩原 子ども部長
私からは、寄附金による奨学金について、三点お答えいたします。
初めに、奨学基金についてでございます。
お話しの北海道内の人材や資源が集中する札幌市においては、民間からの寄附による給付型の奨学金制度を運営することは、福祉的な位置づけとともに、将来の人材の育成支援及び確保といった面から寄附する側のメリットも高く、事業に長い歴史があり、実績を高い水準で維持しているものと推察しております。
区でも共助による子育ての仕組みづくりのため、平成十八年度から区民や団体からの寄附に基づく子ども基金を運営しております。多くの寄附をいただくことに苦労している面もございますが、子ども基金がより多くの人に有効に活用されるよう、基金のPRや区民参加による活動報告会の開催など創意工夫するとともに、寄附金を活用した奨学金制度の参考となる事例について広く情報収集してまいります。次に、奨学金の支援対象の拡大についてでございます。
区の奨学資金貸し付け事業は、高等学校進学における経済的負担軽減を目的としており、高校の授業料に負担を感じているご家庭や、小中学校での就学援助の終了後の家庭の支援としてご利用いただいております。この制度の受給者は高校三年間で最高百三十六万六千円の奨学金を受けることができることとなっております。高校の授業料無償化の行われている現在、私立学校や専門学校、高等課程の授業料にもほぼ充当でき、経済的負担の少ない中で高校生活を送ることが可能になると考えております。
区としましては、支援対象を大学生などに拡大することにつきましては、企業や財団法人などの奨学金制度や大学独自の授業料助成の取り組み、あるいは福祉資金貸し付け事業などとの整合を図りながら検討すべき課題ととらえております。
今後の区の事業運営に当たりまして、お話しの札幌市などの先行自治体の取り組み実績や成果、あるいは課題などを整理して参考にしたいと考えております。最後に、冠奨学金についてでございます。
いわゆる学内奨学金制度と言われる大学独自の給付型奨学金制度には、百を超える数の企業や団体の賛同を得て運営しているところもあると聞いております。また、奨学金制度の充実している欧米などの諸外国では、個人、企業などの寄附が運営の大きな役割を担っているようです。これらの制度では、支給の対象を授業料から研究費用まで幅広く設定しており、寄附する側もその名を冠する奨学金が学生などの向学心や研究心を高め、大学の発展にも寄与している点を評価しているものと考えます。
区としても、寄附者の名を冠した仕組みが定着することは、若者世代の自立と成長を地域で支援する方策になり得るとの認識を持っております。区内の篤志家や事業者、団体からご協力いただける仕組みのあり方を次期子ども計画策定における検討テーマに結びつけていきたいと考えております。以上でございます。
◆上川あや
区長に再質問させていただきたいと思います。
全体にスピード感のない、旧来の発想から抜け切れていないのかなと感じる答弁だなと私は思ったんですが、区長自身の考えはいかがなんでしょうか。
東京大学では、総長みずからが毎年篤志家を集めてパーティーを開きまして、寄附金の具体的成果を報告するとともに、交流の機会を持って意見交換するなど、リーダーシップを持って取り組んでいます。
こうして集めた寄附金は昨年度末までに二百六十九億円を超えているそうです。リーダーシップがあって、決断すればやれることはたくさんあるはずなんですね。区長はいかがお考えになりますでしょうか。
◎保坂 区長
お答えします。
現在の日本の奨学金はほとんどが貸与ということで、大学院まで行くと全部終わって八百五十万円、九百万円、これをどれだけ返せるのかということで、スタート段階から大変な苦しみを負っていらっしゃる方が多いと。また、病気をされたり、途中で結婚して子どもが生まれたりして、その負債というのが何百万に上るということで、大変社会問題になっていると思います。
ですから、今おっしゃるように、寄附というものが使い切り、差し上げて使っていただくということで、各大学が、特に東大がそういうリーダーシップをとっているということは大変参考になることだと思いますし、札幌市でそういう長い歴史があると。世田谷区でも、高校無償化というふうにはなっていますけれども、日本の教育費は世界一高いわけですから、そういう意味で、これから志のある区内の子どもたち、若者に対して、そういった札幌市にあるような寄附金の奨学金制度ですね。これは私は意欲的に考えてみたいと、ぜひ実現したいテーマの一つと考えております。
先ほどちょっと公園についてもあったので、あわせてお答えしますが、ベンチを皆さんに提供していただくと、名前を入れたいと、こういう提案がございます。私は、ベンチもいいけれども公園そのものもいいんじゃないかと。つまり名前を冠してつけた公園というのは世田谷区内にあるわけで、そういう意味で、これまで区政の中では寄附というものを受け取れるもの、受け取れないものということで、比較的慎重に、先ほど政策経営部長から答弁があったように切り分けていたかのように思いますけれども、やはりこれだけの財政厳しいという時代ですから、工夫に工夫を重ねて、所管で、福祉で使えなくてもほかの分野で使えるというものもあるわけで、土地バンクなどを使って情報を総合化して、ぜひそういう寄附の文化というのをこの世田谷区から生かしていく、そんな決意であります。
◆上川あや
前向きなご答弁だと思いました、ありがとうございます。
区長の答弁を受けて、子ども部長に再質問をさせていただきます。
先ほど冠奨学金の構築を次期子ども計画に合わせて考えていくというご答弁だったんですが、次期子ども計画の検討は来年から始まりまして、策定は再来年度。この実施は三年後なんですね。時間がかかり過ぎだと思います。できることは、計画に合わせるだけでなく速やかにする、計画にしっかりと盛り込むと同時に、速やかにできることからやることが大切だと思いますが、この点いかがでしょうか、お答えください。
◎萩原 子ども部長
次期子ども計画まで何も動かないということではなくて、現在の子ども計画後期計画の評価あるいは今日的課題について、子ども・青少年問題協議会やその小委員会でも随時議論が交わされております。
ご質問のありました寄附金を活用した給付型の奨学金制度を含め、子育て支援における寄附の活用につきましても、こうした協議会で議論を始めてまいりたいと思います。また、議論や検討のプロセスの中でさまざまな課題が見えてくるでしょうし、その中で、取り組むべき課題については取り組んでいくという姿勢で臨んでまいりたいと思います。
以上でございます。