◆上川あや

平成24年度世田谷区一般会計予算ほか、4件に賛成の立場から意見を申し上げます。
本定例会では、福祉と人権、平和の大切さを基調に議会質問を行ってまいりましたが、本日の意見開陳では大きく3点に絞り、要望を申し上げたいと思います。

要望の第一は、区内に埋もれている資源をより有効に活用してほしい、ということです。
財政状況が厳しさを増している折、すべての領域に十分な予算を振り向けることは不可能でありますが、貧すれば鈍するというのでは困ります。世田谷区にはまだまだ活用されていない資源があるのではないか?と私自身は思っています。

今定例会では、まず区内に眠る地下資源に注目し2つの議会提案を行いました。
本会議では区内の温泉から放出され続けている天然ガスについて、また補充質疑では区が所有する大蔵第二運動場の深井戸からくみ上げられる地下水について利活用の方策を提案いたしました。
東京下町を含む南関東地域に水溶性ガス田が広がることは、すでに昭和の中頃より知られてきた事実です。とはいえその埋蔵地域に世田谷区は含まれないというのが従来の定説でした。ところが渋谷区の温泉施設で起きたガス爆発事故、東京北区の温泉掘削現場で起きたガス爆発事故等を契機に、温泉法の届け出規制が強化され、都内の温泉水にかねて考えられてきた以上にメタンが付随することが明らかになってきました。都の環境局に確認したところ世田谷区でも「山河の湯」と「SPA成城」でガスの産出が確認できました。しかもその成分の殆どが、都市ガスの成分であるメタン。都市ガス器具がそのまま使えるほど高純度のガスが日夜、全く使われることなく排出され続けている。このことは2重の意味で問題です。一つはCO2の21倍の温室効果をもつメタンの環境負荷は無視できないという点。もうひとつは確実に地産地消できる筈のエネルギーが無駄になっているという点です。
質問では、特に産出量の多い「山河の湯」に焦点を当て質疑しましたが、そのガス産出量は日量150立米。1リットルのペットボトルにして15万本という大量のガスが毎日無駄になっています。このガスでコージェネレーションプラントを動かせば、25KWの電力と35KWの熱が同時回収できるだけでなく、CO2換算で年729tもの温室効果ガス削減につながります。これは杉の木5万2000本分、東京ドーム16個分の森林吸着量に相当します。そして重要なことは、この問題は世田谷区に限らない全都的な課題であるということです。
平成19年11月、衆議院・環境委員会において都内の温泉水に含まれるメタンの推定量が政府答弁されています。それによれば都内全体で年間 2000~3700tものメタンガスが放出されているとのこと。それらはCO2換算で4万1000~7万7000tもの温室効果を持っています 。これを吸着するには実に台東区の面積の4倍から8倍もの森林面積が必要となる計算です。こうした環境負荷を帳消しにし、有効なエネルギー源として活用してゆくには本会議で申し上げた通り、都の過剰な規制を打破してゆく必要があります。脱原発を掲げ、「エネルギーをたくみに使う街せたがや」を標榜する区長には、都内全体の利益のために都に意見具申するなど、積極的に動いていただくよう改めて求めます。

また補充質疑では、区が所有する大蔵第二運動場内の深井戸に第二の膜処理プラントを開設することを提案いたしました。小田急線以南の砧地域に耐震性の確保されている給水拠点が実は一つも立地していないという事実があります。砧地域の中央に位置する同運動場に第二の膜処理プラントを開設することは、水道料金の節減につながるだけでなく格好の災害対策になることは間違いありません。しかも、この井戸は都の現行の厳しい揚水制限を受けません。区はその権利を十分、区民に還元する姿勢で臨むべきです。

都市整備の領域では、25年春に仮称・二子玉川公園内に復元される旧清水邸書院を核に、二子玉川の崖線沿いに点在するかつての別邸建築物群をつなぐフィールドミュージアムを展開することはできないか、また利活用が一向に進まない「瀬田4丁目広場」とその中にある旧小坂邸の活用を図るため、何ら魅力を喚起しない広場の名称を「旧小坂邸庭園」などに変更してはどうか、との提案を行いました。いずれも区からは前向きな答弁をいただくことができましたが、私からの提案はいずれも費用が掛からない、もしくは初期投資はある程度かかっても、その回収が見込める提案ばかりです。いたずらに時間をかけずスピード感をもってその実現に当たっていただくよう求めます。

要望の第二に、民間の力を活用した低コストの事務展開についてです。

私が30数年間にわたる文化財建築物の死蔵という事実を掘り起し、その復元を提案しつづけてきた旧清水邸書院の復元が、いよいよ本決まりになりました。私自身、財政難の折、難航も予想していた案件でありましたが、あにはからんや区教委の採った策は見事でした。旧清水邸ゆかりの清水建設に復元協力の趣意書を提出し、その役務提供を取り付けることで区の財政負担なく、仮称・二子玉川公園内への再建に道筋を付けました。
私自身、こんなウルトラCもあったのか!と驚くとともに区教委の発想の豊かさを頼もしく感じました。財政難だからと諦めるのではなく、困難な状況だからこそどうしたら打開できるのか、この例も参考に、各所管にはぜひ知恵を絞っていただくよう求めます。

最後に「人権の大切さ」を、区全体としてどう共有してゆくか?は改めて大きな課題ではないか、と私自身は思っています。区も区教委もことあるごとに人権の大切さを口にします。しかしその美辞麗句とは裏腹に、果たしてどれだけ弱い立場の人たちへの配慮ができているのだろう?と区の事務執行の在り方に疑問を抱かざるを得ない事態が続発しています。

区民生活領域の質疑では、来年度から「人権・男女共同参画担当課」という人権専門所管が、世田谷区にも生まれることを取り上げました。しかし立派な名称とは裏腹にその予算規模は他区に比べてあまりにも貧弱で23区平均額の数十分の一程度。人口比で言えば間違いなく、「最底辺を這う状況」にあることをグラフを用いて説明いたしました。
係一つ置いてこなかった今年度と専門部署を置く来年度を比べても、男女共同参画を除いた人権予算がたったの5000円増というところにも、「名ばかり」の現実が現れています。
予算もない、理念もない「名ばかり管理職」という現状は改めていただかなくてはなりません。最低限、お金のかかる年次計画などはつくれなくとも、他区にもあるような人権ビジョン、指針の策定自体は急ぐべきであると改めて強く求めます。
保坂区長の誕生により青少年を対象とした人権擁護の取り組みの強化が期待されておりますが、関心のある領域だけの強化とならぬよう、視野の広い人権擁護の取り組みに努めていただくよう求めます。

先の文教領域の質疑では、烏山地域のある区立中学校が、教材費未納の生徒さんの卒業アルバムの手配についてキャンセルさせてもらいます、などと親御さんに圧力をかけていた事実を質疑いたしましたが、人権教育を行うはずの教育者自身がこうした事件を引き起こすのが世田谷区の現実です。また企画総務の領域でも、区の障害者福祉計画をめぐるパブリックコメントが相も変わらず「文書での意見提出」を前提に募集が進められ、文字を書けない、入力できない障害者に何ら配慮のないまま「ご意見を伺いました」という体(てい)を装っていたことに改善を求めました。
保健福祉領域の質疑では、区長部局の性的マイノリティの相談窓口の確立が、教育委員会に比べ、半年程度遅れることの背景にある、無関心、声を上げることの難しい区民に対する手の差し伸べ方の想像力の欠如について取り上げましたが、どれもこれも人権意識の薄さから来る問題であるように思えてなりません。
区も区教委も、子どもたちに徳目を垂れる前に、自らの人権意識をまず点検し磨き上げてゆくべきです。この点、人権擁護意識の醸成に向けて新たに設置される人権専門所管の奮起を期待するものです。以上を申し上げて私の意見といたします。