◆上川あや
世田谷区の平成22年度各会計決算、すべてに賛成する立場から意見と要望を申し上げます。
私から申し上げたいことは縷々ございますが、本日は安全安心への取り組みと、区民福祉の向上に絞って意見を申し上げたいと思います。初めに、区民の安全安心についてです。
区長は就任以来、被災地支援に大変、力をいれていらっしゃいました。
区職員の被災地派遣、復興支援金の募集、被災地物産展の開催。さらに避難者の住宅支援についても区営住宅の提供に加え、新たに民間賃貸住宅を借り上げ応急仮設住宅として提供するなど熱心に取り組まれてきました。
基本として痛みを抱える方々に寄り添い支えようとなさるその姿勢を評価いたします。また今後とも息長く目に見える支援を続けゆきたいとの思いにも賛同いたします。とはいえ、被災地支援や脱原発にばかり熱心で肝心な区政がお留守ではないのか?といったご懸念の声をこの間、区民の方々からいただくことが多くなってきました。
その質問を向けられるたび、私自身、答えに窮するところがありました。区長の掲げる理念には共感できる部分が多いものの、肝心な街づくり、区民福祉についての具体策はなかなか見えず、私自身、区民に説明する言葉を十分持てないでいるというのが実感だからです。この点、区長には懸念を払拭するに足る施策の明確化、情報発信の強化をぜひお願いしたいと考えています。また言うまでもないことでありますが、区費を投じて被災地支援を続ける中で得られた経験、教訓は何より区民の災害対策の向上に具体的な策として還元していただかなければなりません。年度末までに示される災害対策総点検の中身を注視してまいります。
区政に目を転じれば、災害対策においても今すぐ手を打たなければならない課題は山積しています。放射能対策をはじめ、今定例会でも様々な議論がありました。先の補充質疑で私からは町会、自治会、地域の民生児童委員と地域の要援護者を結び付け、災害時に見守り支援してゆく取り組み、災害時要援護者支援事業や、民生児童委員による安否確認について取り上げました。
区と町会、自治会との標準協定によれば区内で震度6弱以上の地震が発生、もしくは区が災害対策本部を立ちあげた際には要援護者の安否確認がすみやかに行われる約束となっておりました。しかし現実には全く安否確認を行わなかった団体が9団体、一部の確認で済ませた団体が3団体あるなど早くもホコロビが露呈。区内町会等との協力協定の締結が、未だ1/4程度に留まる中、その実効性まで疑わせる事態は早急に改めていただかなければなりません。
また、これを補う民生委員による安否確認についても、どのような場合に、区のどの部署に情報を届ければいいのか、基本のルールさえ作られてなかった現実に驚きました。
結果、どれだけの要介護高齢者の方々が、また障害程度の重い方々がこの春の震災で被害を受けたのか、あるいは安全であったかの全容を、区が全く把握できていなかったという状況は早急に変えていただきたく思います。また、6月の一般質問に引き続き、大深度の井戸からの地下水をくみ上げ、膜処理して安全な水を確保する策について、その進捗状況を伺いました。また一見して、平たん、なだらかに見える街並みの下に谷が埋められている「谷埋盛土宅地」の地すべり対策や、滋賀県近江八幡市で実現している身体者補助犬の避難所での同伴受け入れの共通ルール化、従来の音声のみでの誘導を改め耳の不自由な方々にも危険を知らせることができる光と文字を活用した避難誘導設備の展開についても、区に一段の努力を求めました。
いずれもこれまで光の当たりにくかった課題でありますが、一人ひとりの安心にとっては切実な課題ばかりです。国の指針、都の指針など外的環境が整うのをいたずらに待つことなく、区として率先した対策の強化をあらためて求めます。続いて、区民福祉の向上についてです。
区長が今定例会で他会派の代表質問に対して答えられた、自治体のリーダーに必要とされる3条件――人の話をよく理解する力、逆境や苦痛にさらされている人に対しての共感力や想像力、これらを踏まえてためらわずに結論を出す決断力が必要――との見解に私自身は大いに共感し、また今後の区政について希望を持ちました。それは、知的障害者を一切、職員採用しないという区の態度、「学び」や「労働」に一切移動支援を支給しようとしない区の自称「自立支援」など、区がこれまで“検討するべき課題”と答弁で語りながら、実質何ら改善を加えてこなかった問題に光明が差す思いがしたからです。
しかし、区長が今定例会の冒頭、その招集あいさつの中で語られた、これまでの日本の福祉が「生活保護法、児童福祉法、母子及び寡婦福祉法、身体障害者福祉法、老人福祉法等に基づく行政の措置による、全国均質なサービス提供の形で展開されてきた」との見解には同意することができません。世田谷も自治体間格差の只中にあり続けてきたというのが、地方政治から見た現実だからです。私が議員になって8年、国の福祉政策は大きく変化してきました。
その変化を端的に言えば、「給付」から「自立」へ「中央の管理」から「地方の判断」への変化でした。財政難が叫ばれる中、給付を続けるばかりでなく自立のために支援するという国の理念は一見もっともらしく響きます。しかし給付の削減は国の方針で一律に進められる一方、国が示した自立支援のメニューをどれだけ実践するかは各自治体の判断に任されてきた。つまり住んでいる自治体の判断力、財政力によってサービスは大きく異なり、自治体間の格差は広がる一方でした。例えば、児童扶養手当の支給は2002年8月以降、国から区に移管され、所得に応じて細かく減額されるようになった。同年11月には、「改正母子寡婦福祉法」が成立。更なる減額が定められた。一方、2003年3月に国が告示した「母子・寡婦福祉対策の基本方針」は地方自治体に母子家庭の自立支援に向けて努力すべき3つのステップを示しました。
第1に、ひとり親家庭等について詳細な現状把握を行うこと。第2に、現状把握に基づいた自立促進計画の策定、第3に具体的な自立支援メニューの展開です。しかし、告示は自治体の義務を定めたものではなくあくまでも方針。採用するもしないも自治体の判断です。結果、区では2004年12月に私が本会議で取り上げるまで国が示した「母子・寡婦福祉対策の基本方針」も国が示した自立支援メニューの存在も何一つ把握してこなかった。当然、国が求めた調査など行っておらず、当時すでに世田谷区に隣接する目黒、杉並など都内7区1市で実施されていた「母子家庭自立支援事業」も当区では手つかずのままでした。これらが一気に動き始めたのは私の議会質問以降のことです。また、同様の事態は障害者支援においても生じました。地域における移動支援、コミュニケーションの支援、日常生活用具のあり方やその支給量は障害者自立支援法の「地域生活支援事業」に位置づけられ、各自治体の判断に任されてきた。このため、都内11区19市では無制限で利用できる手話通訳者の派遣が世田谷区では回数、時間数ともに厳しい制約の下に置かれ、中野区では無料で給付される人工肛門・人工膀胱の装具が世田谷区の当事者にとっては依然大きな負担でありつづけてきた。こうした無策や格差を直視することから、世田谷区の福祉の展開を考えていただかなくてはなりません。
先の決算委員会・補充質疑の他会派の質問に対して、世田谷区の民生費の区民一人あたりの支出額は23区でも最低水準にあり、23区平均の7割弱にとどまるとの答弁がありました。高齢化の進展、生活保護の受給率が比較的低いことを差し引いたとしても世田谷区の福祉の水準が決して褒められた水準ではないことに思いを致すべきだと思います。
こうした分野でこそ、区長の掲げるリーダーシップ像、逆境や苦痛にさらされている人に対しての共感力や想像力、それらを踏まえてためらわずに結論を出す決断力が期待されていることを申し上げまして、私の意見といたします。