◆上川あや

初めに、男女共同参画と多文化共生推進の条例について伺います。
私自身は本条例でカバーされる性的マイノリティーの一人として、同条例の必要性を強く認識し、その制定を支持します。しかし、社会の多数派側で暮らす方々の多くは差別を受けず、条例制定が必要となるほどの社会的状況が果たしてあるのだろうかといま一つ合点がいかないという方もいるかもしれません。

そこでまず確認したいのが、本条例がカバーをする主な対象者、女性や外国人、性的マイノリティーに対する差別や権利侵害の実相に対する区の認識です。
例えば昨年、法務省は、日本に住む外国人一万八千五百人を対象に、初めて差別と偏見に関する実態調査を行い、そのデータを公表しております。報道では、過去五年間に日本で住居を探した二千四十四人のうち、外国人であることや日本人の保証人がいないことを理由に入居を断られた経験がある人はそれぞれ四割に上り、物件に外国人お断りと書かれているのを見て諦めた人も二七%いた。日本で仕事を探したり働いたりしたことがある二千七百八十八人のうち、外国人であることを理由に就職を断られた経験がある人も二五%に達したが、このうち日本語での会話ができない人はほとんどいなかった。同じ仕事をしているのに日本人より賃金が低かったと回答した人も約二〇%に達したと報じられております。
同調査は、世田谷区を含む全国三十七市区を対象に実施をされ、その集計結果の世田谷区分は区にもフィードバックをされていると確認しております。世田谷区内に暮らす外国籍住民の差別の実態はどのようなものでしょうか。その結果概要の説明と区の考察、その結果の公表を求めます。御回答願います。

また、一昨年、区が実施をした性的マイノリティー支援のための暮らしと意識に関する実態調査報告書からも、性的マイノリティーに対する差別と排除の実相をうかがい知ることができます。当事者約千人から回答を得て、学校でのいじめや暴力の経験が二五%に、職場での差別やハラスメントの経験が二九・四%に、地域住民の無理解、ハラスメントの経験が三五・五%に、身近な医療機関の無理解、ハラスメントの経験が二九・八%に見られました。回答者の半数は東京都民です。区内にも同様の傾向があると見るべきです。
一方で、国内には性差別を禁じる法律は雇用分野のみにしかなく、人種差別一般を禁じる法も性的マイノリティー差別を禁じる法もありません。
また、都内十二区十三市は既に性差別禁止を規定する男女共同参画条例を持ち、うち六つの条例は性的マイノリティー差別をも禁止しております。しかし、こうした手当ても今の世田谷区にはなく、深刻な人権侵害も野放しとなっています。これら状況を区ではどう理解するでしょうか。また、どう施策に取り組む考えであるのかを伺います。

質問の第三は、区民の差別をなくしていく区の取り組みに対する区民の認識です。
区が昨年四月に実施をした多様性が尊重される地域社会への取り組みに関する区民アンケートの結果は大変興味深いものでした。区は調査対象の年齢に偏りが出ないよう、十九歳以下から七十歳以上まで二十年区切りで五分割し、各二百人に調査票を送った調査です。回答率も他の調査に比べ遜色のない三〇%に上りました。一番回答の多かった層は七十歳以降の二五・一%でしたが、年齢層にかかわらず、性的マイノリティー支援の各施策に大変支持的な区民が多いことが見てとれます。
あなたが性的マイノリティーの方々の人権を守る施策について、区が取り組むべきこととして必要だと思うことを教えてくださいの問いに、同性パートナーが医療や福祉サービスを受ける際、本人にかわる同意等ができるようになるなど、家族や法律上の婚姻関係と同等の扱いを受けられるようになること、また、就労において性的マイノリティーを理由に差別されないよう企業に働きかけることへの支持はともに五〇%を超えております。いずれも単なる教育と啓発だけでは解消しがたい壁でありますが、差別や排除を解消する実際的な取り組みを区民の半数以上が求めております。こうした実データからも区民の理解度は高く、条例制定の機は熟していると見ることができると考えますがいかがか。さきに実施をした同条例のパブコメの結果とあわせて区の見解を伺います。

続けて、区が新たに示した条例案第八条の基本的施策についてです。
区は、同条第一項で(1)固定的な性別役割分担意識の解消から(10)国籍、民族等の異なる人々の文化的違いによる偏見又は不当な差別の解消まで十の施策を並べ、第二項では、「区長は前項に定める基本的施策を効果的に推進するため、必要な教育又は啓発を積極的に行うものとする」と規定をしております。ところが、十ある施策のいずれについて啓発を行うのか、あるいは教育を行うのか、はたまたその両方を行うのかがわからない。私からは、特に昨年来、従来の教育で手薄になりがちだった性的マイノリティーの支援に係る教育を同条例の施策に明記するよう求めてまいりましたが、この点を含め、区はどういう意を込めて今回条例提案をなさっているのか確認をさせていただきます。お答えください。

この質問の最後に、第十一条が規定をする苦情処理についてです。
区が同条文の項目名を私の要望どおり苦情処理としたことは評価をいたします。しかし、区が苦情の申し立てとして受け付ける範囲は、あくまで区の施策そのものへの苦情に限定されると聞いております。他方、例えば外国人であることを理由にアパートの入居を断られた、民族の違いを理由に就職内定を取り消されたなどの訴えは、第十一条の規定で言うところの相談として受け付けるということです。
以前示されていた骨子案では、「区長は前項の規定による相談又は意見の申出があったときは、必要に応じて当該相談をする者を支援するための措置を講じ」と明確に支援の方向性を示しておりましたが、今回の議案では、「適切な措置を講じるものとする」とあるだけで、「支援」の二文字は消えております。所管に伺うと、明らかに差別に基づく権利利益の侵害があった場合には、他の自治体の条例と同様に区民の人権を擁護、支援する側に立ち、権利侵害をする側に対しては粘り強く理解を求めていくということでありますが、いま一度この本会議の席で区の被害者救済の手法を明らかにしていただくよう求めます。実効性ある取り組みになるでしょうか。御答弁願います。

◎田中 生活文化部長

私からは、多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例について、五点に御答弁いたします。

初めに、女性や外国人、性的マイノリティーに対する差別や権利侵害の実態に関する区の認識、特に外国人住民調査の結果について御答弁いたします。
外国人住民調査は、外国人の人権に関する法務省の人権擁護機関の取り組みの充実推進に向けた基礎資料の収集を目的に、住んでいる地域での日本人とのつき合いについて、日本社会における差別、偏見の有無について、外国人に対する差別的な表現について、差別や偏見をなくすための施策についての四項目について行われました。当区の調査の回答率は二四%で、百二十人から回答をいただきました。国、地域別では、中国、韓国、アメリカの順に多くなっています。また、住む家を探した方のうち五二・四%、また、仕事を探した方のうち二二・二%が外国人であることを理由に断られたとの経験があり、お店などへの入店を断られた経験のある人は一二・五%である一方、二七・五%の人が外国人であることを理由に侮辱されるなど、差別的なことを言われた経験がありました。回収率、調査結果ともに他市区と大きな差はありませんでした。これにより、区民である外国人の方の多くが困難に直面したことがあることがわかりました。
この調査結果は、区として多文化共生施策を進めていくに当たっての大変貴重な資料であり、今後の行動計画の策定に当たって活用してまいりたいと考えております。また、区民に見ていただけるよう区のホームページで公表するなど、情報提供に努めてまいります。
なお、女性については固定的な性別役割分担意識の解消が進まないことや、性的マイノリティーについては、地域で暮らす上での困り事として地域住民の無理解やハラスメントがあるなど、差別の解消が進んでいない状況もあるという認識の上で今後の取り組みを進めてまいります。

次に、性差別、性的マイノリティーの差別を禁じる条例が世田谷区にはない状況を区はどう理解しているか、また、どう施策に取り組む考えかという点にお答えいたします。
区では、昭和五十四年の世田谷区婦人総合対策の策定を初めとする行動計画の策定や専管組織の設置などにより、固定的性別役割分担意識の解消や男女共同参画の推進に取り組んでまいりました。
また、昨年三月には男女共同参画社会基本法の趣旨を踏まえるとともに、基本構想、基本計画で掲げる個人の尊厳や多様性の尊重との整合を図り、一人一人の人権が尊重され、みずからの意思に基づき、個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会の実現を基本理念とする第二次男女共同参画プランを策定しました。このプランでは、男女共同参画社会の言葉の定義を、男女だけではなく、多様な性を含めた全ての人が尊重され、参画できる社会とし、性的マイノリティー等多様な性への理解促進と支援を十二の課題の一つに位置づけております。さらに、平成二十八年には国際課を設置し、国際交流とともに、多文化共生を施策の柱とし、外国人へのコミュニケーション支援や多文化ボランティアの養成などを進めてまいりました。
今後も、多様性を認め合い、人権を尊重する地域社会の実現に向け、施策を推進するためには、本定例会に御提案しております世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例の理念に基づき、区、区民、事業者が一体となって男女共同参画、多文化共生に係るさまざまな施策に取り組んでいく必要があると考えております。

次に、区民の理解度について御答弁いたします。
昨年四月に実施した多様性が尊重される地域社会への取り組みに関する区民アンケートは、人権尊重の観点から、性的マイノリティーに対する取り組みをさらに進めるための基礎資料とすることを目的に、千人の区民を対象に、十項目の質問にお答えいただきました。性的マイノリティーに関する社会的な理解や認識が高まっているかという問いに対しては、そう思うという回答が五九・二%で、そう思わないという回答二一・七%を上回りました。そのほかの質問への回答結果からも、徐々に区民の理解は進んできていると感じております。
また、昨年九月から十月にかけて実施した条例骨子案に対するパブリックコメントでは、百二人の方から二百九十六件の意見をいただきました。骨子案の内容よりも踏み込んだ積極的な御意見が多く寄せられるなど、多様性の尊重に関する関心の高さがうかがわれました。こうした調査やパブリックコメントからは、性的マイノリティーに関する理解が進んできていることや、多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例への期待を感じているところです。今後さらに理解促進に取り組んでまいります。

次に、第八条の基本的施策において、教育や啓発を行うに当たっての区の考え方について御答弁いたします。
条例は、区が目指すべき地域社会像や、区、区民、事業者等の役割、柱となる基本的施策を定めるとともに、行動計画の策定や審議会の設置、苦情処理体制の整備など、着実に推進するための体制について定めております。
一方、具体的な施策や事業は、そのときの社会情勢や区民意識調査の結果等を踏まえ、また、審議会や議会の御意見も伺いながら、重点を置くべきものと継続的に取り組むものなどについて行動計画に定め、取り組んでいくものと考えております。
第八条第一項五号に掲げる性的マイノリティの性等の多様な性に対する理解の促進及び性の多様性に起因する日常生活の支障を取り除くための支援も含め、啓発や教育は非常に重要なものであるとの決意のもと、条例案の第八条第二項に積極的に取り組む旨を明記しておりますが、事業所への女性活躍推進に向けた啓発など、教育という表現がなじまない分野もあることから、記載のような表記としたものでございます。

最後に、苦情処理への区の取り組み手法について御答弁いたします。
昨年九月に条例骨子案をお示しして以降、議会やパブリックコメントにおいて苦情処理の規定を置くとともに、その処理に当たっては、第三者機関を設置すべきとの御意見を数多くいただいたことから、今回の条例案では、第十一条を苦情の申し立て等とし、第十二条で苦情処理委員会を規定いたしました。また、条例案では、相談者へのさまざまな支援だけではなく、未然防止や予防啓発など、考え得る適切な措置を講ずる規定とするため、「支援するための措置」を「適切な措置」と修正いたしました。苦情申し立ての対象は、「男女共同参画・多文化共生施策に関する事項」となりますが、区の施策以外の事項に関する相談についても条例の理念に反するような差別的取り扱いに当たると思われるものなどについては、相手方への条例の趣旨の説明に努めたり、適切な相談窓口へつなぐなど、相談者に寄り添った適切な支援をしっかりとしてまいります。
以上でございます。

◆上川あや

区長に再質問いたします。

法務省の外国人差別に対する実態調査で、世田谷区分の調査結果の深刻さにすごく驚きました。
過去五年以内に家を探した方のうち、外国人であるために入居を断られた経験者は、ここ世田谷では五二・四%、全国より十ポイントも高いんです。同じく就労を断られた経験も二二・二、店への入店を断られた人も一二・五、侮蔑的な言葉にさらされるなどの経験も二七%、これは過去五年の全部経験で、世田谷区民のデータなんですね。
これらはいずれも従来の国際理解教育や国際交流事業だけでは権利侵害の状況は改善いたしませんので、手当てできないことは明らかだと思います。条例を基盤に、少数者の差別に対する対応を強化する必要があると考えますが、区長の見解をお伺いいたします。

◎保坂 区長

上川議員の再質問にお答えをいたします。

私も今の法務省の区内データの数値を見まして大変驚きましたし、非常に恥ずかしいことだというふうに思います。
世田谷区に在住する外国人の住民は、間もなく二万人となります。先日も、二月十日でしたけれども、日本人と外国人を三十数名ずつ、計七十名の方たちがワールドカフェ方式で、お互いの自己紹介から世田谷区をどういうふうに住みやすくするか、あるいは海外から来た方と、もともと世田谷区に住んでいる住民との交流などのテーマで話し合いがございました。これは二回目だったんですが、共通して受けとめたのは、相当日本語が、居住年数も長くて非常によくお話になられる方でも、地域のコミュニティーに入ってかかわり持ちたいんだけれども、なかなかそのきっかけがつかめないんだというようなお話、また、恐らく住宅探し等で約半数ということであれば、それぞれ御苦労されているんだなというふうにも思います。
この条例で二つの柱がございまして、一つの柱であるLGBT当事者の皆さんの人権保障という内容については、この条例提案以前から区としても取り組みを続けてきまして、さまざま調査も続けてまいりました。法務省のデータを今御紹介いただいたように、あるんですけれども、どのような外国人居住者、外国人の区民が差別的な扱いを受けているのか、あるいはこの条例を実際に制定した、議会で認めていただいたならば、その後どのように変遷していくのかということで、きちっと実態を把握していくことがまず大事だというふうに感じました。
もう一つなんですが、私は二〇〇〇年当時に外国人研修生、実習生の現場をぜひ見てくれということで、中部地方のある紡績工場で働く、それは中国からだったと思いますが、時給三百円で、今ぐらいのシーズンで暖房はなく、ペットボトルにお湯を入れて暖をとりながら作業をしていると、そういう例を見まして、これは労働基準監督署に通知して――つまり、外国人研修生、実習生は、労働基準法の適用外ではないんですね。それはもう随分前のことなので、制度は大分改善されました。
しかしながら、残念ながら外国人の方には安いお金で働いてもらって当然だという誤解、これは間違った認識ですが、そういうことがあってはならないし、また、大勢の方が就労していけばけがもします。そうすると、労働災害、労災の適用というようなことも御存じないケースが多いです。既に産業政策部に対しまして、労働基準法を中心に労働関係法規をどう外国人の働いている皆さんに伝えるのか、あるいはその外国人労働相談の体制を構築するための検討をつい先日指示したところでございます。

◆上川あや

ぜひ議会の皆様の御賛同を得て条例を成立させて、施策を前に進めていただきたいと思います。