◆上川あや

初めに、手話通訳者派遣事業について伺います。

昨年施行された障害者総合支援法で改めて区市町村の必須事業に位置づけられた手話通訳者派遣事業でありますが、区の事業内容は厚労省が昨春示したあるべき事業内容のガイドライン、いわゆるモデル要綱に従っておらず、おくれたものになっています。そこで以下、改善を求め質問いたします。

問題点の第一は、区が手話通訳者等派遣センターの運営経費の実費を負担せず、その多くを委託先であるはずの世田谷区聴覚障害者協会に押しつけていることです。区が計上する事務所の借り上げ賃料は、月額四万五千円。しかし、実際の事務所賃料は月額九万七千円。実に半分以上が同協会の負担です。加えて、三年に一度の更新料、賃貸契約で必須とされる火災保険料も全額が同協会の負担です。また、区が計上する人件費はわずか一人分。
現実には複雑な派遣のマッチングは一人では到底無理で、三人が従事をします。ここでも区は多くの人件費を同協会に押しつけています。法律上、区の必須事業である手話通訳者派遣事業の必要経費は、区が実費負担することが当然で、区内の全ての聴覚障害者が加入するわけでもない一障害者団体に多くを押しつけるやり方は誤りです。即刻改善を求めます。区の見解を伺います。

問題点の第二は、区が手話通訳者の派遣回数、時間数に制限を加え続けていることです。かねてより私からは、都内二十三区中十一区でそもそも手話通訳者派遣事業に回数制限も時間数制限もないことを指摘してきました。たび重なる私の指摘を受け、区も平成二十二年度より派遣回数、時間数ともに倍増させはしましたが、上限がある以上、結局利用者はもしものときに備えて使い控えせざるを得ず、使いたくても使えないとの声が絶えません。
結果、その後も派遣量はさしてふえず、区の派遣経費は予算額を大きく下回り続けています。結局のところ、区の派遣制限は障害者福祉の向上に役立たないばかりか、その社会参加を抑制、阻害してきた要因ではないのでしょうか。区の見解を伺います。
また、国が示したあるべきあり方、モデル要綱は、今後、回数制限、時間数制限を特に設けない方向を明確に示しました。障害者差別解消法も、使いにくい制度そのものが合理的配慮の欠如であり差別であるとしています。区も不当な回数制限、時間数制限を撤廃するべきです。区の見解を伺います。

第三に、手話通訳者の職業病、頸肩腕障害についてです。
手話通訳者の職業病に、首、肩、腕にかけて痛み、しびれ、だるさ等が生じる頸肩腕障害が知られています。この障害はキーパンチャー、速記者など反復運動を繰り返す職業に多い過労性の障害で、手話通訳では緊張感を常に強いられるストレスも関係するものとされています。さきに通知された国のモデル要綱では、市長は、意思疎通支援業務の特殊性により発症が危惧される頸肩腕障害、メンタルストレスに起因する疾患等の健康障害を予防し、意思疎通支援者の健康保持を図り、もってこの事業全体の健全な運営を確保するため、必要に応じ意思疎通支援者の頸肩腕障害に関する健康診断を実施すると書かれておりますが、区では対応しておりません。既に奈良県香芝市、岡山県真庭市、兵庫県丹波市等の派遣事業では織り込まれている検診です。区も実施するべきです。見解を伺います。

この質問の最後に、手話通訳者派遣の申請者制限も廃止するべきです。
区の手話通訳者等派遣センターの案内では、派遣対象を区内在住の身体障害者手帳一級から六級を所持する聴覚障害者で他に通訳を得られない方並びに区内外の企業、学校、団体などと限っています。しかし、国のモデル要綱は申請者制限を事実上廃止しました。手話通訳は聴覚障害者と健聴者おのおのの意思疎通を図るツールであり、モデル要綱が聴覚障害を持たない個人にもその派遣を認めた点は重要です。区の事業も、障害の有無を問わず双方向の個人から利用できるものであるべきで、申請者制限も廃止が望ましいと考えますがいかがか、区の見解を伺います。

◎小堀 障害福祉担当部長

私からは、区が実現する手話通訳者派遣事業につきまして、四点御答弁させていただきます。

まず、世田谷区手話通訳等派遣センターの運営経費についてでございます。
聴覚に障害のある方々と健聴者との意思疎通の方法には、手話を初め要約筆記や筆談などさまざまな方法がございます。平成二十六年一月に我が国も批准いたしました国連の障害者権利条約には、手話が言語であると明記されており、手話通訳者派遣事業は重要な事業であると考えてございます。
区では、聴覚障害がある方に対し、東京手話通訳等派遣センター及び世田谷区手話通訳等派遣センターから手話通訳者を派遣する事業を実施してございます。世田谷区手話通訳等派遣センターにつきましては、その運営を特定非営利法人世田谷区聴覚障害者協会に委託してございます。
区の派遣センターの運営経費でございますが、事業の委託先であります世田谷区聴覚障害者協会により見積もりをいただいた上で、予算編成を行っております。人件費や事務所の賃貸経費等につきましては、現年度経費の実績額や従事するスタッフの状況等をお聞きいたしまして、予算措置を行っております。御指摘の点を踏まえまして、改めて事業者に運営の状況等について確認し、その上で対応について検討してまいります。

次に、手話通訳派遣事業の利用回数、時間数制限につきまして、聴覚障害者の福祉向上と社会参加を抑制、阻害する要因となっていないか、また、区は、利用回数、時間数制限を撤廃すべきという御質問につきましてお答えいたします。
お話にありました平成二十五年三月に国から示されました意思疎通支援事業実施要綱、いわゆるモデル要綱でございますが、自治体が事業を実施する上での指針であり、御指摘のとおり利用回数、時間数制限の記載はございません。区は、平成二十二年度より三カ月間に利用可能な回数を十八回から四十五回に、時間数を四十五時間から九十時間にふやしまして改善を図っており、その後、利用はふえる傾向にございます。この手話通訳者派遣事業につきましては、財源上の制約が多い地域生活支援事業の位置づけでございますが、国の要綱も参考に、利用回数、時間数につきまして検討してまいります。

次に、手話通訳者の頸肩腕障害に対する健康診断につきまして御答弁申し上げます。
御指摘のとおり、日々聴覚障害のある方と健聴者の意思疎通支援に尽力されております手話通訳者の方々にとりまして、頸肩腕障害などを予防することは重要な課題でございまして、国のモデル要綱にはそのための健康診断について必要に応じて実施する旨、記載がございます。東京都の手話通訳等派遣センターでは、登録されている手話通訳者のうち、前年度の実績が多い十名に対しまして、頸肩腕障害の健康診断を実施しております。
区といたしましても、手話通訳者の方々の健康保持のため、同様の制度について検討してまいりたいと考えております。

最後に、手話通訳者派遣の申請者制限も廃止するべきという御質問につきましてお答えいたします。
区が委託しています手話通訳者派遣事業におきましては、申請者を聴覚障害者、聴覚障害者団体及び区所管課等に限ってございます。一方、区の事業とは別に、例えば民間企業の研修に伴う依頼があった場合には、その企業の予算による派遣も行えると伺ってございます。また、聴覚障害のある方との意思疎通におきましては、どなたでも手話通訳者の派遣を申請することができるようにすることも情報アクセシビリティーの観点から、将来的には望ましいものであると考えてございます。手話通訳者派遣の申請者制限を撤廃するためには、御指摘いただいた回数制限や手話通訳者の確保などの課題もございます。そうした課題の優先度も含めて整理いたしまして、検討を進めてまいりたいと考えております。
以上でございます。

◆上川あや

区長に再質問いたします。
手話通訳者等派遣センターの実費を区が支払わないできた件についてですけれども、部長は先ほど、委託先の聴覚障害者協会より見積もりをいただいた上で予算編成を行っているというふうに、さも正しいかのように木で鼻をくくったような答弁をしたんですけれども、裏にはからくりがあります。
同協会に確認したところ、見積書の各項目の単価は基本的に区の指示どおりに記載していますというお答えです。つまり実態とは違って区の指示どおりに書いている。従来より区からは、月々の経費四・五万円以外は協会負担でお願いします、人件費は基本一日一人分と申し渡されており、それをもとに見積書は書かれ提出されているそうです。これは実態と離れた不当な文書作成の強要であって、ブラック企業が、あんたが判こを押したんだから金は一切払わないという手口とうり二つなんですね。こうした事務は改善する必要があります。どうですか。

◎保坂 区長

再質問にお答えをいたします。
本年一月、我が国は国連障害者権利条約を批准いたしました。また、平成二十八年四月には、障害者差別解消法がいよいよ施行されます。これらにより、障害者の差別的取り扱いは禁止され、区は障害者が安心して暮らすことができるよう、さまざまな支援が必要であると思います。
また、今回の手話通訳者派遣事業につきましては、これまでの経過、運営状況を改めて正確に把握した上で適切に対応するように指示してまいります。障害者差別解消法が求める、いわば地方公共団体が差別解消のための合理的な配慮を欠いてはならないという法の趣旨にのっとって対応してまいります。