◆上川あや

私からは、失語症者のコミュニケーションを支援する失語症会話パートナーについて伺います。
2005年6月の区議会の区議会で、失語症の課題について私から取り上げました。その際、私からは、相談訓練機能の充実、就労の支援、居場所づくり、社会的啓発、そして、今回取り上げる失語症会話パートナーの養成について伺いましたが、今回は失語症会話パートナーに絞って伺ってまいります。

まず、前回の質問から六年がたっておりますので、その間の復習です。
失語症は、脳卒中や頭部外傷によって言語野を損傷し、その機能を損なうもので、いわゆる高次脳機能障害の一つです。脳卒中は日本人の死亡原因の第三位を占めて、一命を取りとめた場合でも三割から四割は失語症が残るとされています。若年層では交通事故の影響から失語症になるケースが多く、国内の失語症者は五十万人に及ぶという推計もあるそうです。つまり、失語症は、いつ、我々に起こってもおかしくない障害ということです。
失語症になりますと、話し言葉だけではなく、聞く、読む、書く、それぞれに影響が残ります。耳は聞こえているのに言葉の意味がわからない、目に文字が見えているのにその意味がわからないといった症状から、言葉や文字がわからない外国に一人取り残された状態にも例えられます。
失語症会話パートナーは、こうした方々の悩みや特性を理解し、適切なコミュニケーションの橋渡しを行う人ということで、聴覚障害者をサポートする手話通訳や要約筆記者に当たるような人たちです。
私の議会質問から三カ月後、区は早速、総合福祉センターで失語症会話パートナーの養成を始めてくださったんですけれども、人材養成がその後順調に進む一方で、その活用は十分に図られてこなかったのではないかと思っています。
世田谷区の現行の第二期障害福祉計画では、昨年度、そして今年度と、失語症会話パートナーの個別ニーズへの派遣というものを試行実施するとしていたんですけれども、昨年度も、そして今年度も実施をされておりません。これは一体どうなっているんでしょうか、ご説明をお願いいたします。

◎知久 障害施策推進課長

区では、失語症の方のコミュニケーションを支援し、社会参加を促進するため、平成十七年度より総合福祉センターにおいて失語症会話パートナー養成講座を開催しております。
第二期障害福祉計画の取り組みにより養成者数を倍増させ、現在までに五十二名の方が修了しております。第二期障害福祉計画でお示しした失語症会話パートナー派遣については、この間検討を行ってきたところでございます。検討の結果、研修修了後すぐに実施することに、修了者からも不安の声があること、事業の受け皿の団体が育っていないなどの理由から、当面の取り組みとして、失語症の方々のグループの活動の場に研修修了者が複数出向き、ボランティア活動としてコミュニケーション支援などを行っております。
現在、修了者のうち四十三名の方がこうしたボランティア活動に従事されており、「せぱねっと」という連絡会を設け、自主的に活動先の調整を行い、実践を積んでいるところでございます。

◆上川あや

区で会話パートナーの養成事業がスタートしてからもう六年がたちました。研修後、すぐに派遣されることには不安がある、これもわかるんですが、この間、当事者グループへの派遣が積み重ねられている折、もう言いわけにはなりません。都内全体の失語症会話パートナーが約三百人強とされる中で、もう既に世田谷区には四十三人もの登録者の方がいらっしゃる、展開できるだけの人材は既に育っています。
一方、人生の途上で読む、書く、聞く、話すの四機能を失った方々のコミュニケーションの困難は大変なものだと思います。以前、議会質問に先立って参加させていただいた当事者グループでは、私より若い失語症の女性の方からとつとつと、病院の屋上から飛びおりようとしたのという話を伺って、私は一緒にお弁当を囲みながら涙をこらえることができませんでした。また、資料をさまざま読み解く中で、すごく印象的な言葉がありました。失語症の本質は孤独病であるという言葉が私の胸に突き刺さる思いでした。
失語症者の社会参加が患者会だけ、その場所に限られるということでは非常に不十分です。一人一人の当事者が社会につながる上でのパートナーの意義、その派遣について、区ではどのように考えるのでしょうか、お答えください。

◎知久 障害施策推進課長

脳梗塞などの脳血管障害や交通事故などが原因で失語症となられた方は、意識や判断力は保たれているにもかかわらず、最も身近な家族や友人との会話もうまくいかず、社会参加の場でも無視や誤解され、孤立しがちになるとお聞きしております。
失語症会話パートナーは、失語症の方と周囲の意思疎通がうまくいくよう、コミュニケーションの橋渡しの役割を担っています。具体的には、失語症についての正しい理解に基づく適切な会話技術により、失語症の方の言いたいことを引き出したり、言葉の理解を手助けしております。
障害者の社会参加が求められる中で、失語症会話パートナーの役割は、今後ますます重要なものになると考えてございます。

◆上川あや

当然のお考えだと思います。当事者それぞれの社会参加、社会復帰を後押ししていくためには、個別のニーズ、生活場面に応じた派遣事業の確立が欠かせないと考えます。既に千葉県の我孫子市では、二〇〇七年の十月から個別ニーズに応じた会話パートナーの派遣事業をスタートさせています。失語症の当事者の利用料は無料、派遣される会話パートナーには報償費も支払われるという事業です。
区もこうした事業の確立を急ぐべきと考えます。区として今後どのように取り組まれるのか伺います。

◎知久 障害施策推進課長

今後、国では障害者自立支援法にかわる仮称障害者総合福祉法の制定に向けた作業を進めていくことになりますが、区としても、そちらでの検討を注視する必要がございます。法整備に係る状況や事業の受け皿となる団体が育っていないといった現状を考えますと、現時点ではご指摘の個人への失語症会話パートナーの派遣については幾つか課題があるものと認識してございます。
今後の取り組みについてでございますが、区としましては、連絡会「せぱねっと」の方々と組織の強化、充実が図れるか、あるいは今後活動の広がりが可能か、こういった点につきまして意見交換等を行い、可能性を探ってまいりたいと考えております。

◆上川あや

「せぱねっと」の方々と事業の進展に向けて話し合っていただけるということなんですけれども、区としてどのようなサポートができるのか、しっかりと提示する形で議論をリードしていっていただきたいと思います。
そして、受け皿となる団体ができていないということのお話がありましたけれども、区でできないのであれば、区や外郭団体がその受け皿となってください。既に我孫子市の場合では、民間の受け皿が育ちにくい事業である。だからこそ、市が直接会話パートナーの派遣事業をスタートさせているんですね。かつて言われることが多かった福祉の先進都市世田谷、この言葉を取り戻すような気概を持って取り組んでいただくように要望いたしまして、私からの質問を終わります。